アフロス事故

本ページの内容は,実際の調査事案を基にしたフィクションです。したがって登場人物その他は実在するものではありません。

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アフロス事故


調査レポートを届けるために会社に立寄った。我々の仕事は一匹狼でやっているので、たまに会社に寄ってアホなことの一つでも言うというのは気分転換になるし、女子社員をからかうというのも面白い。もっとも最近は女性アシスタントスタッフもえらく教育が行き届いてきたのか、彼女達からツボを押さえたレポート督促を食らったりすることもある。逆にからかわれているのはこっちかも知れない。

アホなことを言ってくつろいで居たら、営業社員の一人が帰ってきた。と思ったらいきなり、『おや、武さんじゃないですか、ちょうど良かった。1件持ってかえってもらえますか?アフロスなんですけど、まあ、怪しくはないと思うんですけどね。』と言いながら資料の入ったファイルを手渡す。

『おい、ちょっと待てや。これってえらい遠いがな。』資料に書かれた調査地域は大阪府南部にある郊外の街である。こっちは隣接する兵庫県から出て行くわけで、ちょっと面倒な気がした。

『いいじゃないですか?湾岸線を走ったら直ぐにいけるでしょう。』またこれや。『お前なあ…、簡単に言うてくれるけど、湾岸線がいつも空いてるということはないんやで。距離もあるしな。』と返しても平気なもんで、『でもこれは武さんにやってもらわないと他に居ないんですよ。』と来る。

『アホ言え、南部にもなんぼでも調査する人居てるやろ!』と言いながら資料を見ていると、この契約者は分割払い方式で自動車保険に加入しているが、保険料の未払いが2ヶ月連続になって、失効状態になっていた。月初の日曜日(1日)に未払い分の保険料を代理店に支払って、水曜日の事故発生となっている。事故は車両単独事故で警察への届出はなされていない。事故時間は真昼間である。

こういう案件は結構多くあって、接近事故という。保険料が入金になってから事故発生までの期間が短いことから、往々にして、実は事故が先に発生していて、その後から保険料を入金するというケースのものである。事故の後から入金となっているので、業界用語ではアフロス(アフターロス)と称している。

しかし、実際には保険料入金後の事故というものは結構あるもので、逆に保険を掛けていて良かった!と契約者の皆さんが実感されるのはまさに本当にそのような事故に遭ったときであろう。

いずれにせよ、この案件は保険料入金後3日目の事故なので保険会社も調査を入れるだろう。久し振りに湾岸線のドライブもいいかと思って『OK!引き受けるわ。』と引き受けることにした。

まずは、契約者への面談予約である。とにかく契約者に会って、詳しい話を聞かないことには始まらない。面談予約の電話を入れた時にちょこっと探りを入れる。大変でしたね…から始まって面談日時を決めるまでに相手の職業と事故時間との関連、事故状況、関係資料などを持っているかなどを聞いておく。

面談の際に、それらをふまえて詳しい話を聞くということになる。
聞いてみると、契約者は飲食店に勤務しており、帰宅は概ね深夜になってしまうとのことである。事故当日は朝に家族を送った後、店用の仕入に行った帰りの事故とのことである。

現場は幹線道路から左折して借りている駐車場方向に向かう道路の交差点あたりということであった。現場あたりには粗大ゴミが不法投棄されているところで、それらが交差点側にはみ出して放置されており、左折する際に、車内の荷物が崩れそうになったのでわき見をしたところ粗大ゴミに衝突したとしていた。

自走することは困難であったが、現場から駐車場までの距離がそれほどなかったのでそのまま駐車場に戻ったが、駐車場で車庫入れをする際に駐車位置の前にある電柱にも接触してしまったとしていた。

保険料の支払いについては、保険会社からの通知で保険料未払いの事実がわかったので、代理店に電話をかけて日曜日に集金に来てもらった。正規の領収書は未だ到着していないが担当者の書いた預り証は保管しているとし、たしかに名刺に書かれた預り証を確認することが出来た。

一見筋の通った話のようであるが、これは明らかにおかしい。この契約者は以前にも2ヶ月連続で保険料未払い(口座引き落とし不能)になっており、代理店の手集金を行っていた。もっとも、このようなケースはよくあることで保険会社としては保険料が入金になっていれば問題ないわけである。

ただ、2ヶ月連続で保険料が未払いになった時点で、次に入金になるまでの期間は失効状態といい、保険の効力がなくなるということである。保険会社が保険料引き落とし不能事実を知って、契約者に文書で通知するまでにはそれなりに時間がかかる。

この契約者の場合、保険料引落日は27日である。それが保険会社からの通知によって未払いの事実を知って代理店に連絡をとって保険料を支払ったというのは不自然である。

この部分で、?と思うわけであるが、そこは知らない顔をして次の質問に入るというのが常套手段である。

車両盗難とかいたずらといった案件でもそうであるが、このように事故日が特定し難い場合は、事故前に異常のない状態で車両を見た第三者が存在するかにポイントがある。この案件の場合は水曜日に事故が起こったとしているので、前日の火曜日に契約者の車両が無事に走行していたことを確認できれば良いわけである。

契約者は通勤に車両を使用していたが駐車位置と勤務先とは距離が離れており、第三者による最終確認者は存在しないということになった。そうするとやむを得ないので、当日の朝に送ったとする家族(契約者の妻)に確認をとるということになる。

しかし、これはいわば身内であることから信憑性については説得力に欠けることとなる。それでも一応『奥さんに確認をさせていただけますか?』ということで、面談先の喫茶店から携帯電話をかけてもらって、契約者の話の通りであるという確認を得た。

事故後の措置としては、すぐに修理工場に連絡をとって車両の引き取りを依頼して修理工場に持っていってもらったとしていた。

ここまでの段階では、一応契約者の話は筋が通っている。ただ、車両の損傷具合が粗大ゴミに当たったにしては大きいということで、事故状況にちょっと疑問がある点、そして先の保険料支払いについての疑問がある。

とにかくせっかく午前中からわざわざ出てきたので、現場と駐車場を押さえて帰ることにして、事故現場を見に行った。確かに事故現場交差点あたりには業務用冷蔵庫やTY、シンク、布団など様々な粗大ゴミが多く捨てられており、その量はハンパなものではなかった。しかし、それは交差点から数メートル入ったところに山積みになっており、契約者の言うように交差点にはみだしている状況にはなかった。

ただ、こういったゴミ類については、市役所などが定期的に片付けており、事故当時はどのような状況だったのかはわからない。

次は駐車場である。たしかに現場から200m程度の距離にその駐車場はあった。駐車場は露天の月極駐車場で、契約者の言うように駐車位置のななめ前にコンクリート製の電柱が立っており、入庫するのに邪魔になる感じであった。

電柱について確認したところ、どう見ても車両が接触した形跡が見受けられない。これはおかしな話で、契約者はたしかに駐車場に戻った時に車庫入れの際に頭がうまく振れず電柱に接触したとしていた。また、車両は右前あたりがV字形になるような形で凹んでいるとしていた。

大きな部分の損傷は最初の事故現場で付いたものとしても、電柱にも接触したのであるから、多少の接触痕があってしかるべきである。

駐車場はよくある駐車場で、露天となっている。隣は駐車場となにかの倉庫然とした販売店のようになっている。そのまた斜め向かいも駐車場である。倉庫然とした販売店に立寄ってみたが不在で誰も出てこられなかった。ただ、幸いなことに駐車場の向かいに1軒の住宅があった。

ここで主人に話しを聞いたところ、なんとその主人は契約者の車両が損傷状態のまま3日程駐車場に置かれ、さらにボデーカバーをかぶせて2日程置かれていたと思う。その後、いつのまにか現在の車両(これは代車)に変わっていると言ったのである。

その話に間違いないかを再確認したところ、先ほどの倉庫然とした販売店の人も車両を見ていて、『ごっつい当たったんやなあ…』と話をしたとのことである。

これはどう考えてもおかしな話である。契約者は事故の後、すぐに修理工場に手配して車両を引き取ってもらったと言っていた。善意の第三者が虚偽の説明をすることは考えられないので、これは契約者の話がウソということになるだろう。

この後、営業担当者と打ち合わせを行い保険会社から車両写真を取り付け、再度、駐車場近隣の主人に車両の確認を取り、さらに販売店従業員にも確認して、当該保険請求が契約者の説明と異なるという結論を出したものである。

市役所にゴミ処理についての確認、修理業者に入庫日等の確認を行うなど、その他の周辺調査を行ったことは言うまでもない。



 本件のポイント

この案件については、駐車場近隣への確認が決め手になったわけであるが、このような近隣確認については時として思わぬ情報を得ることが出来る場合があることから、近隣確認の重要性を再確認するケースとなった。
おそらく本件事故現場は契約者の申告とは別の場所であり、事故発生のあとに保険料引き落としが出来ていないことに気付き慌てて代理店に連絡をとって保険料を支払った後に事故報告をしたということであろう。
事故後に、保険関係に詳しい者に助言を求めたことは間違いないものと思われるが、その間、事故車両を駐車場に置きっぱなしにしたということに抜かりがあったということになる。


この項で書いている記事はずいぶん以前のものですので、現在とは状況が異なっている場合もあります。
しかし基本的にはなにも変わっていないともいえますので、そのまま掲載しています。

2016年12月19日



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