事故調査現場からの保険関連情報

保険事故調査の現場最前線から見た保険にまつわる記事を掲載しています。

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保険金請求が趣味の人?


クライアントである保険会社からは実にいろいろな調査依頼がくる。契約保険種類が多くあるので当然といえば当然であるが、中には面白い案件もある。

今回のケースでは面白いという表現が適切かどうかはともかく珍しい契約者であることに違いはない。
この契約者に最初に会ったのは、約1年半ほど前のことであった。先輩調査員の人についていったものであったが、訪問前に資料を見せてもらって驚いた。

契約している保険は、いわゆる積立型の家族傷害保険で携行品特約が付保されているもので10年契約、保険料は一時払いである。つまり同居の家族全員が有効な普通傷害保険に携行品特約が付いているものである。

保険自体はなにも珍しいものではない。130万円くらいの保険料を一時で払って、10年後の満期時に100万円の満期金と配当金が戻ってくるというものである。

珍しいのは保険金請求の回数である。契約は6年目に入ったところであった。先輩調査員の人が笑いながら『私はこの種の保険については詳しくないのでよくわからないが、この案件についてどう思う?』と言って資料を見せてくれた。

それにはこの契約における過去の保険金支払い履歴が記されていた。ナント、そこには保険契約開始2ヶ月後から毎年6回位の保険金請求が行なわれ、しかもその全てに保険金が支払われていたのである。1回あたりの保険金請求額は多くて10万円余り、多くは数万円程度で主に通院保険金と携行品損害である。

過去5年間で30数回の事故発生である。支払い保険金はすでに90万円に達しようとしていた。
いくら家族傷害保険だからといっても、ちょっと事故件数が多すぎるのではないか?。家族は4人家族で夫婦2人と男子が2人である。そのうち夫の事故報告は一度もない、すべて妻と子供2人の事故である。ほとんどが子供が自転車で転んでケガをして衣類が破けたとか、テニス、ゴルフ中にケガをして同時に携行品あるいは衣類に損傷を受けたというものである。

入院などはない、すべて通院である。中には携行品だけの損害等もあった。
今回の保険請求は携行品だけの請求で、一つは子供(といってももう大人だ)がブランドもののスーツのパンツをタバコの火で焦がしたというものと、もう一つは妻が海外旅行から戻って自宅前で車両のトランクからスーツケースを出す際に誤って地面に落してしまって破損したというものである。

『これはいくらなんでも事故回数が多すぎるのではないですか?事故そのものはあり得るような事ばかりですから一概におかしいとは言えません。しかし、事故回数は異常に多いですねえ。しかもほとんどが10万円 未満のペティクレームですから保険会社もしのごの言わずに支払う金額です。しかし、よく払い続けましたね(笑)』

『この保険は、こういう事故で払ってもらえるものなんだねえ。今回はついに確認ということらしい。』

『この契約者には他社に同種の保険契約があるんじゃないでしょうね?もしそうだとしたらこの窓口になっているという妻は相当保険に詳しい人ですよ。』

こんなことを話しながら調査先に向った。
いよいよ面談であるが、先輩は流石にそつなく話を聞き出している。あくまでも事故確認なのであるから事故状況等を話してもらうというスタンスである。また、もちろん中立の立場でなければならない。

スーツケースについては、実際に車のトランクから出す時の作業を再現してもらった。息子は不在ということでまったく状況はわからない。

被害品については、購入先も購入金額も曖昧、領収書等も保管されていない。
スーツケースについては有名ブランドの物ということであったが、実物はとてもそのような物ではない。数ヶ月前に購入したものとのことであったが、とてもそのようには思えない。購入先はどこにでもある大手スーパーのバッグ売場だったと思うとのことである。

海外旅行については、ハワイに行ったとのことであったが、オアフ島だかハワイ島だかわからない。同行した人に連れて行ってもらったようなもので詳しいことはわからない。同行者に確認してもらうことに差し支えはないということであった。
最後に保険請求がこんなに面倒なものならもういいとのことが聞かれた。

面談を終えた後に我々2人の間で交わされた内容は、たかだか数十センチの高さから落してスーツケースがあの程度の損傷を受けるかという整合性と、購入内容について、さらに海外旅行に本当に行ったのか?という疑問であった。

後日、大手スーパーのバッグ売場に現物を持っていき確認したが、同種のスーツケースは販売されておらず実勢価格等の確認もできなかった。スーツケースは有名ブランドのものではなく、購入後かなりの年数が経過しているものであった。

この後、最終的のこの案件がどういう処理になったか実は知らない。ただ、息子のブランド物スーツについては保険請求自体が取り下げられたとのことであった。

我々が調査レポートを保険会社に提出して、最終的に支払う支払わないの決定はあくまでも保険会社が行なうものであり、我々はそこまで関知しないのである。

このようなお話をどう思われるだろうか?

実は最近、この契約者に私は再び面談することとなったのである。今度は息子が起こした事故に伴って同様に携行品損害の請求がきたものである。

偶然のこととはいえ、思わず笑ってしまった。被調査人としては、前回は先輩調査員がメインだったため私のことは覚えていなかったようだが、『今までに保険請求などありません。この子は初めてです。思う存分調査してください。』としゃあしゃあと言う姿には参ってしまった。

今回の事故は実際に発生した自動車の自損事故であり、発生事実に間違いはなかった。しかし、保険請求された被害品にはやはり結果的には虚偽の申告としかいえないような物が含まれていた。

損害額全体が100万円を超過するような金額であり、対して支払い限度額が30万円程度のものであることから限度額まで支払わざるを得ない状況であろう。

この契約者には昨年の事故から今回まで保険請求事故がなかったのであろうことが推測できる。今までの年間6回程度の事故はどうなったのか?きっと子供も大きくなって事故件数が減ったということになるのだろう。

保険請求多発者というのはたしかに存在する。また、たまたま単年度に実際に複数の事故が発生するということもある。契約を結んでいる以上、契約者側も請求する権利があるわけなので、正当な請求は行なうべきである。せっかく契約をして、支払い事由に合致する事故に遭っているのにそのことを知らずに保険請求を行なわない人も多く存在している。

しかし、今回取り上げたケースは事故多発も群を抜いており異常な請求事案としかいえない。



 追記

この項で書いている記事はずいぶん以前のものですので、現在とは状況が異なっている場合もあります。
しかし基本的にはなにも変わっていないともいえますので、そのまま掲載しています。

2016年12月19日



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