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調査員の憂鬱


保険事故調査という仕事に関与してすでにけっこうな時間が経つ。現場を踏む調査員にとっての大きな憂鬱の原因は調査会社のスタンスとも言えるだろう。

調査会社としては営業面のことを考えると、どうしてもクライアントである保険会社に対して強いことを言えず、また場合によっては保険会社寄りのレポートを提出したりする傾向もある。

そのため、現場調査員からのレポートの中で総括部分を改ざんしたりすることもある。

ある意味ではやむを得ないこともあるのだろうが、私にはそれが許されない。そのため上司あるいは雇用主と対立することもあるのだが、ここでもその最大の原因は保険会社の担当者のレベルといえるだろう。

モラルリスク案件は別にゆずるとして、多くの場合は事故解決(示談)にあたっての過失割合を決定付けるための事故原因調査というものになる。

調査会社のスタンスとしては、あくまでも客観的にその事故の原因を確認し、実際の事故状況がどのようなものであったかをレポートするものであろう。

それを基にして、保険会社の担当者が相手方と交渉をすれば良いわけで、そこは担当者の交渉能力の問題になる。

ところが調査会社のレポートには参考所見として過失割合の提示を求める。場合によっては、調査会社がこのように判断しているので・・・とそのまま示談に使うこともあると聞く。

そこに、調査会社とクライアントである保険会社との力関係で、クライアント側に有利な見解を示すというのは大きな間違いが発生することとなる。

それは客観的な第三者としての立場からのレポートとは決していえないだろう。

そんなことが日常的に行われるのであれば、調査会社って一体なんだ?!ということに繋がる。ひいては調査業務というものについての評価を落とすことになるだろう。

保険会社の担当者が多忙であるため、その代わりとして事故現場に赴き、さらに当事者双方に事故当時の話を聞き、そこから実際の事故状況がどのようなものであったかを確認し、あるいは物理的に検証して特定するのが本来の仕事といえる。

その材料を基にして、そこから示談に臨むべきことだ。

現場を踏む調査員は、ある意味ではその客観的な特定をすることに面白さを感じ、はっきり言って決して満足出来るものとはいえないギャラで仕事を引き受けている。

そして提出したレポートに自信を持っている。多くの調査員はそうであろう。(中にはそうでない調査員が存在することも事実であるが、それはここでは論外)それが営業上の対策という名のもとに歪曲されて納品されるというのは大きな憂鬱になる。

また時として保険会社の担当者は事故確認、調査を入れることそのものを被調査人に伝えていないこともある。あるいは調査目的についてきちんと説明をすることなく、いきなり調査を入れるという対応や、調査会社から連絡を入れるという道筋すら付けず、いきなり調査依頼を出したりすることもある。

それでは被調査人は大きな不満と不信を持つだろう。調査されるということについて気分良く思う者は誰一人としていない。そのため、あらかじめきちんと調査目的を説明しておかなければ満足な調査など出来るはずがない。

被調査人にはきちんと説明をするとそのほとんどは納得を得られる。つまり調査についての納得が得られればなんらの問題もない。そのわずかな努力すら怠るというのはもってのほかだろう。

さらには、必要でない調査先や、場合によっては的外れな調査先を指定してくることがある。一体どんな解釈をしているのか?と思うことがあるが、それでもクライアントが指示していることなので断るわけにはいかないと調査をするように命じられる。

営業職にはどうしてその部分を説得、あるいは説明出来ないのかその神経を疑うが現実にある姿である。

モラルリスクの、いわゆるクロというような人物でない限り、人として接してきちんと説明すれば誰でも調査そのものについての納得は得られる。また客観的な第三者としての立場からの調査結果については文句をいわれることはないだろうし、逆に文句を言われない調査をする必要がある。

出したレポートはある意味では調査員の作品であり、そこには自信がなければならない。また客観的に納得させるだけのものを作らねばならない。

他の業界でもよくあることであろうが、そのような評価は概ね低い。

営業上での力関係から下請け業にあたるものは概ね冷遇される。それは世の常というものであろうが、ナンセンスな話といえよう。

「あんたの言うことは理想論だ」と、時として言い合いになることがあるが、以前にも述べたように保険会社の事故処理担当者というのはもっと知識と判断能力を持ち、さらに交渉能力を持つ必要があるだろう。

調査会社は単なる下請け会社ではなく、その担当者と同等であり、時にはコンサルタント的なものでなければならないというのが私の考えであるが、現実としてそれはほど遠いようだ。



 追記

※この項で書いている記事は10年以上前のものです。したがって現在の状況にはマッチしない部分もありますが、過去の記事の保管という意味から、原文のまま掲載しています。

2016年12月19日



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