過去コラム保管場所

当サイト立ち上げ時以降、少しずつ書いていたコラムのバックナンバーです。

スポンサーリンク


 保険金詐欺疑惑にあった話


全国の多くの喫茶店のテーブルがインベーダーゲームのついたテーブルに変わり、皆がテーブルの上に100円玉を積み重ねて遊ぶという異常な事態が当たり前の景色であった昭和52年頃だったか、私は一人のお客から「お客を紹介する」という電話を受けた。

当時のインベーダーゲームのブームは凄まじく、ゲーム機械のリース業などを営む人達にとっては自分の所有するゲーム機械に動産総合保険とか盗難保険を掛ける事は必須となっていた。なぜならそれだけ盗難とか機械荒らしが横行していたということである。

さて、とにかく紹介を受けて、その契約希望者に会ったが年齢はまだ20代で明らかに堅気の人間ではなかったが、特別人が悪そうにも思えなかったし、またゲーム機械のリースとかブローカーとかをやっている人に普通の人は少なかったので特別疑うこともなくとりあえず詳しい話を聞く事にした。

聞けば新たに機械を15台購入したと言う。15台といえばちょっとまとまった台数である。そこで保管されている場所に同行してもらい、機械のチェックをした。淀川区の十三(じゅうそうと読む)の近くのプレハブ造りの倉庫であったが、まあチェックもし、リストをもらって保険料14万円弱を徴収して契約を締結した。

それから1ヶ月もしないうちに、ある日の朝、食事をしながら新聞に目を通しているとまたゲーム機の盗難事故が報道されていた。またかと思いながら読んで見るとどうもどこかで見たことがあるような場所である。そりゃそうだ、ついこの前自分が契約を取った機械の盗難事故だ。

あわてて会社に行くと、契約者からはもちろん事故報告が入っていた、と同時に管轄の淀川警察署から契約のいきさつ等を聞きたいので出頭して欲しいとの連絡も入る。自動車事故というのは日常茶飯事でしょっちゅう起きているわけだからどうってことは無いが、この手の事故は初めてだったのでちょっと緊張しながら警察に赴いた。

TVドラマなどでよく出てくる取調室で刑事がいろいろ契約に至ったいきさつ等を聞いてくるので受け答えしていたが、だんだん腹が立ってきた。その刑事の口ぶりはまるで自分がその契約者と組んで保険事故を仕組んだような言いぐさだったからである。

その刑事に何を言い返したかもう忘れてしまったが、とにかく「警察いうのは人を疑うのが商売か知らんけど失礼ちゃうんか!人にものを聞く言うのはあんたらはこういうことか、ほんならもっととことん調べたらええがな、調べて怪しかったらそういう聞き方もあるやろけどええかげんにしいや」言うて帰ったと思う。

この一件でいいかげん頭に来て、やっと会社に帰ったと思ったら更にはらわたが煮え繰り返るような事に出くわした。それは驚くべきことに会社側がなんと警察と同じような対応を取ったのである。これにはさすがに驚きを通り越して情けなくなってしまった。

この時はまだ自分も26歳位の若輩であったので一本気なところもあったので、そういう受け方になったのだと思うが、保険会社の対応などそんなものだ、とその時悟った。

結局この件での自分の疑いは晴れ(当たり前のことだ!)事故そのものはしかし詐欺臭いということで、調査会社を入れることとなった。保険Gメンという職業の人がちゃんと存在するのである。(今は大変にその数も多い)Gメンなどというとえらくかっこ良いが、要するに保険事故専門の興信所である。

刑事上がりとか警察官OBをスタッフとしており、彼らの人脈を使って警察から情報を収集するのであろう、この件の契約者も窃盗とか家宅侵入とかといったしょうもない前科が5つも付いていることをたちまちにして調べてきて、これは絶対にクロですから必ず立証しますなどと言っていた。

が、結局詐欺であるという立証は出来ず、保険会社もいつまでも支払いを止めておくわけにもいかず(これは仕方がない、約款に決めてあるのだから)最終的に契約者は保険金額の半分の支払いでどうかという提案を示して、会社も保険金を支払った。

契約者の保険金額の半額の支払いで良いというのもなにやらおかしな話ではあるが、とにかくそれで解決した。時期が時期だったので早く現金を調達してまた次ぎのゲーム機を手配したかったのかも知れないし、保険会社も調査費用を支払っても保険金額全額を支払わずに済んだのだから良かったのだろう。

もしこれが本当に詐欺事件だったとしたら、犯人は14万円弱の保険料で300数十万の保険金を手に入れたわけであるから、極めて効率の良いビジネスということになる。

いずれにしろこの事件のお蔭で私はそれまでのほほんと人を余り疑うことなく生きてきただけに、しばらく極度の人間不信に陥った、また保険契約、事故報告などにおいても常に契約者側に立って、出来る限り契約者の有利なように展開出来るスタンスを取ったことは言うまでも無い。

なぜなら、現場の営業マン、外務員にとって一番大切なのはお客様で、財産もそれ以外に無いわけであるから当然であろう。極端に言えば引受保険会社などどこでも良いわけで、お客様は私の所を経由して保険に加入するわけで、事故が起こった際に迅速に保険金の支払いが出来れば良いのである。

もう一つは、そう警察に対しての考え方である。もともと警察にはあまり良い印象は持っていなかったが今回の件はそれを決定的なものにした。たまたま当った刑事が悪かったとか警察的見地から言えばある程度仕方ないとか思われる人がいらっしゃるかも知れないが、実際にその立場になったらきっとお判りになると思う。あれは警察という機構の根本的体質なのである。
ということでいろいろと勉強をさせられた事故であった


(1999年1月20日)



 追記

※この項で書いている記事は10年以上前のものです。したがって現在の状況にはマッチしない部分もありますが、過去の記事の保管という意味から、原文のまま掲載しています。

2016年12月19日



スポンサーリンク


ページのトップへ戻る